今回は流行りのSTEM教育と特に未就学児の早期教育へのメリットについて論文を紹介します。
STEM教育って効果あるの?エビデンスあるの?流行りだから、なんとなく子どもに学ばせるのは不安ですよね。
また、いつ頃からSTEM教育を学ばせますか?小学生から?今回は幼児を対象にした早期教育、STEM教育の研究を紹介します。
幼児へのSTEM教育の効果についての研究やエビデンスを教育内容などをまとめているので、この記事でSTEM教育と幼児への効果や内容が分かると思います。
またSTEM・STEAM教育系の教材・おもちゃもこちらでまとめています
また字幕付き動画でも解説していますので良かったら見てくださいね。
STEMとは
STEM教育(ステムきょういく)とは、”Science, Technology, Engineering and Mathematics” すなわち科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する語である。2000年代に米国で始まった教育モデルで、科学技術開発の競争力向上という観点から教育政策や学校カリキュラムを論じるときに言及されることが多いそうです。Wikipediaより
つまり科学・技術・工学・数学の分野について手厚く教育を行い、ITや国際的に活躍できる人材を育成しようという目的があります。
以下のようなバリエーションもあるようです
eSTEM (environmental STEM)
環境教育を加えたもの
STEAM (Science, Technology, Engineering and Art)
芸術分野の要素を加えたもの
日本では、アメリカ合衆国のオバマ前大統領が2009年にSTEM教育に力をいれると発表したことがきっかけで、一般的に知られるようになりました。
具体的には以下のような分野を示すようです。
Technology(技術)・・・最適な条件・しくみを見つけ出すこと
Engineering(工学)・・・しくみをデザインし、社会に役立つモノづくりをすること
Mathematics(数学)・・・数量を論理的に表したり使いこなすこと
今回はこの人気のSTEM教育には🦐:エビデンスはあるの?というテーマで深堀していきたいと思います。
スポンサードリンクSTEM教育と幼児への学習・発達の効果を調査したメタアナ研究
今回紹介する論文はMeta-Analysisというデザインの論文です。
簡単に言ってしまうと沢山の同じような個別の論文をまとめて、結果や効果を考察するスタイルの論文です。
沢山の研究を一つにして解析するためエビデンスレベル、科学的根拠の質は高いと言われています。
詳しくはWikipedia 参照 メタアナリシス(meta-analysis)とは
2021年に出版されたトルコのテッド大学の研究です。
論文を探すにあたり以下の条件で選びました。
✔介入の対象が就学前であること
✔研究が実験的研究であること
✔参加者が就学前の子どもであること、
✔研究が2010年から2019年の間に行われた研究
Web of Science(WoS)、Education Resources Information Center(ERIC)などの論文データベースで英語とトルコ語の両方で「STEM教育、幼児期、プリスクール、実証研究、実験研究」などと検索し絞っていきました。
7000近い論文から最終的に5つの研究が条件に合いました。解析ために12個のサブグループの論文も参考にしました。
興味深い内容が研究されているので、この主要となる5つの論文について簡単に紹介します。
幼稚園児58名をSTEM教育グループと通常保育に分けて比較!算数の点数が上がった!
2015年のアメリカノースカロライナ大学の研究です。(1)
ノースカロライナ州の58名の幼稚園児が対象となりました。(女子24人、男子34人)
事前事後の研究デザインでした。
※事前事後の研究とは介入前と介入後にテストを行って比較する研究です。
まずSTEM教育をするグループと通常保育をするグループに子ども達を分けました。
STEM教育開始前に子どもたち全員に算数のテストである「初期数学能力テスト第3版」(TEMA-3)を実施しました。
その後、子どもたちはSTEM教育を受けるグループと通常保育のグループに分かれ約6週間過ごしました。
6週間後にもう一度算数のテストであるTEMA-3を子ども達に実施しました。
また、子どもたちの様子をビデオで観察しても、STEM教育を受ける前と受けた後では子どもたちの科学の概念に対する意識や興味が高まり、さまざまな質問や予測、説明をするスキルが向上していることがわかりました。
「グーグル」で検索したり、教育用ソフトのゲームをしたりするなど、テクノロジーの利用も研究が進むにつれて増えたようです。
STEM教育の具体的な教育内容は?これをして幼稚園児の算数の点数が上がった!
2017年のノースカロライナ大学の研究で、先の研究と同じ著者と共著者の研究です(2)
先ほどの研究と同じで事前事後の研究デザインでした。
62名の幼稚園児(女子36名、男子26名)が対象となりました。
2015年の研究と同様にSTEM教育するグループと通常保育のグループで約10週間行い前後の比較をしました。
STEM教育をするには先生たちもSTEM教育に精通していなければなりません。
先生たちは合計10時間の専門的なSTEM教育の方法を学びました。
具体的なSTEM教育内容は以下の通りです。
STEM教育の具体的な内容
科学(Science)
人体(生命科学)、天候と水(地球・環境科学)、運動(物理科学)の3つのテーマに関連した様々な科学教材が用意されました。
技術(Technology)6台のiPadを購入し子どもたちに数学、科学、工学に焦点を当てた、発達段階に応じたゲームのアプリで遊んでもらいました。すべての子どもが週に30〜45分以上、iPadのゲームで遊ぶ機会を持つようにしたようです。
工学(Engineering)
工学的な活動を行いました(例:橋をかけたり、パイプラインを作ったり)、また建設用のおもちゃが用意されました。また先生は以下の簡単な手順で子どもたちに教え工学的な技術や知識を磨いてもらいました。
(1) 作りたいもののアイデアを出してもらう (2) 設計図の作成 (3) 製作手順の計画 (4) 設計図に基づいた部品などの製作(5) 試作品の作成 (6) テストと再設計。
数学(Mathematics)
子どもたちの数学の学習を促進するために,数の感覚,測定,データ収集,幾何学など,数学のさまざまな分野に焦点を当てた一連の数学の活動や授業をしました。また、先生は他の分野との関連性を考慮して、数の感覚の習得に特に重点を置くようしました。
これらのSTEM教育を実施した結果
✔算数のテストであるTEMA-3のテストはSTEM教育を受けた子どもたち(平均98.56点)が通常保育の子どもたち(平均88.93点)よりも有意に点数が高い結果でした。
その他、ビデオでの観察により科学や技術、工学に対するスキルが上がっていました。
STEM教育で物や仕組みを理解するための探索的な行動が増え、無駄な行動減った!
2016年ベルギーバイブ大学の研究です。(3)
4〜6歳の幼稚園児57人を対象にしました。そのうち31名が男の子,26名が女の子でした
事前にテストを行い、STEM教育を受けるグループと通常保育のグループで7週間経過後に子どもを再度テストしました。
探索的な行動や無駄な行動を評価するテスト
テストは赤いブロックに一定の手順でブロックを置くことや操作するとライトがつく脳トレのような玩具で試しました。
まず実験者がやってみせて「見てごらん、何で機械が動くんだろうね」と言い、ブロックを元の位置に置いて(ライトが消えて)、「さあ、遊んでごらん、やってごらん」と言いました。
子どもは75秒間遊ばせ、実験者は他のこと(本を読んだり、文章を書いたり)に忙しいふりをしました。そしてビデオで撮影し子どもの様子を観察しました。
探索的な行動
子どもたちが有益で意味のある実験や行動を行ったかどうかをテストで確認しました。
それは主な二つの項目で観察しました。
✔試した回数:意味のある行動が出来たか?
→例えば、子どもがブロックの位置を一定に保ったまま、ブロックの向きを変化させるなどライトをつけに行くような行動です。この回数を数えました。
✔情報収集:意味のある情報を取りに行く行動をしたか?
→例えば、他のブロックを一定に保ったまま箱を動かしたり、他のブロックを一定に保ったまま箱の上部を叩いたりしました。その箱の情報を取りにいく行動です。この回数を数えました。
無駄な行動
無駄な情報を得た場合や意味のない試しの回数もカウントしました。
意味のない試しの回数とは、子どもが一度に複数のブロックや操作を行った場合にカウントされました。
→例えば、箱を動かしながらブロックを動かす、箱の表面上の位置を変えながらブロックを動かす、箱の表面上のブロックをより強く柔らかく叩きながらブロックを動かすなど、これは複数の要因を同時に行うと、どれが原因でライトがついたか分からないからです。これらは無駄な動作とカウントされました。
事前のテストではSTEM教育受けるグループと通常保育のグループに探索的な行動や無駄な行動に差はありませんでした。
✔STEM教育では探索的な行動が通常保育のグループよりも有意に多くみられ、無駄な行動は有意に少ない結果でした。
STEM教育は個人よりもグループ教育が効果あり!
2017年米国ワシントン大学の研究です(4)
4歳から5歳の幼稚園に通う子ども141名を対象としました。
141名全員をグループでSTEM教育をする場合と個人でSTEM教育をする場合で比較しました。
1グループあたり6~7人の人数のようです。そしてグループ意識を高めるために同じ色のTシャツを着てもらったりしました。
✔持続性や自己効力感、課題への興味は高まりました。
✔個人でSTEM教育をするよりもグループでした方が楽しいという結果でした。
タブレットのSTEM教育系のアプリなども効果的だった研究
2016年アメリカのノースウエスタン大学の研究です(5)
4歳~6歳の60名の子どもたちを対象にしました。
タブレット端末を使ったSTEM教育に関連したアプリをしてもグループとSTEM教育には関連しないアプリゲームをしてもらいました。
また、STEM教育のアプリは対話型と非対話型のアプリの2種類を二つのグループに分けてしてもらいました。
アプリの内容は主に物の長さを推測するゲームでした。
✔STEM教育に関係ないアプリをしたグループよりSTEM教育のアプリをしたグループの方が物を測る能力が向上していました。また、対話型の方がより成績が良い傾向にありました。
STEM教育は学習や発達に中程度の良い効果がある!5つの研究をメタアナリシスした結果
これまで紹介してきたSTEM教育の5つの研究ですが、これらの研究結果を融合させてまとめた論文が冒頭に紹介したメタアナ論文になります。
5つの研究を分析した結果、STEM教育は就学前の子どもの学習や発達に中程度(d=-0.556)の良い効果がありました。
この効果を否定するためには、STEM教育の効果がない論文を134件(対象研究数の27倍の効果量)出る必要があるという計算結果でした。非常に頑健な結果ですよね。
個人的な研究の限界
このメタアナ論文で結果の解釈に注意が必要なのは、幼稚園児の科学・工学分野の学習を定量的に評価する標準的な手段がないことだと思います。
今回メタアナリシスに組み込まれていた論文は研究者が観察して評価したものがありました。このような評価方法は少しエビデンスの質は下がると思います。
また、解析する論文数や対象者数が少ないと思います。これは2010年以降の比較的新しい論文を採用していたこと、STEM教育の概念が新しくまだ研究数が少ないことがあると思います。
今後の研究が進めばもっと精度の高い結果になると考えます。今後の研究に期待しましょう!
小学生から大学生のSTEM教育の効果を調べたメタアナ論文!
また、小学生から大学生を対象にした25の研究を解析した2018年のメタアナ論文では以下のような結果も出ています。(6)
✔STEM分野に対する前向きな態度についても中程度の効果がありました。効果量=0.620
✔科学的プロセススキルについては高い効果がありました。効果量=0.820
※効果量は1に近づくほど効果が高いとされています。
スポンサードリンクまとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は未就学児、幼児に対しても中程度の効果を認めたようです。STEM教育は全ての年齢の子どもに効果があるかもしれないですね!
研究者は幼児などの早期からSTEM教育を実施すべきと述べています。効果的なら取り入れても良いかもしれませんね。
・5つの最近のSTEM教育では幼児の学習に中程度の効果がある!
・グループで行うと効果的かも
・結果には注意が必要かも
・今後の研究に期待!
こちらにSTEAM・STEM教育系のおすすめ教材・おもちゃをまとめています。良かったら読んでくださいね。
モンテッソーリ教育などの早期教育や学力関係の記事は以下にも書いています。良かったら読んでくださいね。
引用論文